読書感想文「いいデザイナーは、見ためのよさから考えない/有馬トモユキ」

Q.ステマ?
A.さあ?

知り合いが新書を出版されたということで、買ってきて読みました。直接彼と共に何かをしたことは無いのですが、映像作家であった15年以上前から知っている上に何かと面識があり、本も出したのだから何か協力出来ることをしてみよう、というのが発端です。

自分なりにこの本を要約すると、彼の仕事は
・伝える仕事をしているので伝えることを出来る限り絞っている
・絞って伝えるために依頼者の言いたい事や背景など全体を見渡して、予算と優先順序から何を伝えるべきか決定して徹底的に不要なものを削る
・そこから見える形にする

という流れを実際の自分の仕事を通じて紹介しています。
詳細の考え方はものすごく平易な文章で書いています。このあたりはデザイナーらしく一文どころか句読点単位で気を配っているような、そういう綺麗な文語で書いています。このあたりだけでも読む価値はあります。

ただ、この本を読んでても多分、汲み取れないだろうというのがあって、彼の凄い所は、
・高校生の時からすでにプロに対抗できるような、非常に美しいビジュアルを作れる才能を持っていたこと
・あれこれととにかく詰め込みたいという依頼者とやりとりして、必要最低限のメッセージだけ選択をさせるという説得に成功させていること
・そして彼の作品で、彼のキャリアがあり、非常に高い評価を得てきたということ

それらが前提にあった上で、淡々と「こういうことをしてきました」と本には書いており、現実に即して考えると非常に敏腕であることは想像できます。例えば、説得一つ取っても「金払うのこっちなんだから、言った通りにしろ!!」とか「1万円の予算で1億円の広告と同じことをしろ」「無印良品程度のシンプルな奴でいいです」みたいな。下衆の極みのような一流や中小問わず、企業の広報担当からの無茶な要求を受けることは日常茶飯事であると思います。

しかし、そこに対して最終的には「彼の言うこと・やる事に信じたからいい結果を得られた」と感じる結果に何度もたどりついていて、実際に日本で代表するようなデザイン会社に席を置いている、というのは今までの評価の結果ではないかと思います。まして、デザインは依頼者の評判で次の仕事に繋がるか左右される事が大きいと聞くので、多岐にわたる取引先を知られることで、それが実績に繋がっているのだと思います。そしてそれは、彼の本を読んだ時には分からず、彼に仕事を依頼した時に分かることではないかと思います。

本だけではどうしてその結果になったのか?という途中は全て省かれているため、決して見ることは出来ません。これまで彼が紹介された雑誌のインタビューや記事などを読むことで彼の才能にもっと深く知ることが出来ると思います。
個人的にそこが彼自身の本からでは読めないのが残念でした。

Groove bird

2015.05.12 / Category : 小噺